2024年1月18日、ブイクックのVALUESに「INSIGHT DRIVEN(インサイトからはじめよ)」を追加した。
追加してから半年。
振り返ると、顧客の理解、チームのコミュニケーション、事業の進め方、全てが一変した。
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なぜ「インサイトからはじめよ」を追加したか
ブイクックでは、VALUES(行動指針)を4つ以下にして、全員が意識しやすいようにしている。その1つに「インサイトをはじめよ」を追加したきっかけは、危機感からだった。
昨年2023年12月に実施した経営合宿(Q毎に開催)にて、一事業のペルソナが議題に上がった。その時、チームで顧客の課題を共有できておらず、想像のペルソナを各自が話す時間になってしまっていた。
スタートアップが失敗する瞬間を、目の前で見て震え上がった。しかも、それが自分の会社であることに、さらに恐ろしくなった。
事業を立ち上げ、成長させるためにインサイトは無視できない。むしろインサイトなくして作ったプロダクトには、「誰にも使われない」未来が待っていると危機感を持っている。
特に、技術・資金・人脈のない状態からスタートする僕たちにとって、インサイトだけが唯一勝てる道筋だ。
そんな危機感から、合宿後すぐにVALUESに追加し、チーム全員が「インサイトからはじめる」を意識し事業開発・成長に向かえる組織にアップデートし始めた。
インサイトはContextual Factと呼ばれ、日本語では「文脈に合った事実」となります。さらに補足するならば「事業や組織の文脈に合った事実」と言えるでしょう。
つまり、定義から考えるとインサイトは、
- 事実(ファクト)である
- その事実が事業や組織の文脈に沿ったものであること
の2つが重要だと言えます。
参考:Centouにおける「インサイト」の定義と考え方
インサイトの深さ・広さから全てをはじめる
それから、チーム全員がインサイトから事業に向き合うようになった。
- プロジェクト/タスクの優先順位
- 新機能のデザイン/開発
- マーケティングの文言
その全てが「xさんの、yという課題のため」「xさんがyという行動があったように」という枕詞がつくようになった。
反対に、妄想のペルソナや良さそうなアイデアに対しては「そんなインサイトあったっけ?」とフィードバックが入る。そんな素晴らしい組織に近づいている。
僕たちはより失敗確率の低い、確度の高い意思決定をするためにインサイトの「深さ」と「広さ」を常に意識する。
深さ | どれだけインサイトのWhyに近づいているか。 顧客の背景にある文脈(生活環境・価値観など)を理解しているか。 = インサイトを表現する文章の長さ |
広さ | どれだけその課題感/願いを持つ人がいるか。 そのプロダクトを選択する市場は大きいか。 = インサイトを抽出したリサーチ数(顧客)の多さ |
インサイトの深さ(=文章の長さ)
まず重要な観点はインサイトの「深さ」。
曖昧な表現のように聞こえるが、要するにインサイトを説明する「文章の長さ」と言い換えても良い。
インサイトの背景にあるインサイトまで、ハッキリと断言できるようになれば、失敗確率の少ない意思決定ができると考えている。
例えば、後ほど紹介する新規事業のヴィーガン寿司専門店の場合で考えると…
「ヴィーガンの訪日観光客は、ヴィーガン寿司が食べたい」
↓
「ヴィーガン訪日観光客は、せっかく訪れた日本でしか食べられない本場の日本料理としてヴィーガン寿司が食べたい」
↓
「ヴィーガン訪日観光客は、せっかく訪れた日本でしか食べられない本場の日本料理としてヴィーガン寿司を、限られた時間を割かずに観光地の近くで食べたい」
というように、より深くそのインサイトに迫っていくと、自然とインサイトを説明する文章が長くなる。
より長い文章(深い理解のある)のインサイトを元に意思決定することで、より本質的で価値のあるプロダクトを提供できる。
インサイトの広さ(=人数の多さ)
もう一つの観点は、インサイトの「広さ」であり、これは”市場の大きさ”と言い換えても良い。
たとえ深いインサイトから作ったプロダクトであっても、10人しかいなければ事業は成長しない。
リサーチを通して得たインサイトのうち「ターゲット100人中の何名が持つ課題/願いか?」というミクロな視点と、「市場は大きいか?成長しているか?」という視点で、意思決定する。
この点は、以前「スタートアップにとっての「良いアイデア」とは」にも記載した、「大きな波に乗っているか?」という問いと通じている。
どのようにインサイトからはじめたか(ヴィーガン寿司専門店の場合)
インサイトからはじめるために、実際に何をしてきたか。
2024年6月にリリースしたヴィーガン寿司専門店「Vegan Sushi Tokyo」の例を記録しておきたい。
新規事業開発のスケジュール感
この事業は3月から事業開発に着手し、6月から渋谷道玄坂のバーのランチタイムを間借りしてMVPの提供を開始した。
3-4月 | ・ベジ/ヴィーガンの訪日観光客の課題の検証 - ヴィーガン飲食店でターゲットにヒアリング - SNSでのリサーチ ・訪日観光客の多いエリアの飲食店の課題の検証 - 観光地の飲食店に飛び込みヒアリング |
4-5月 | ・ベジ/ヴィーガンの訪日観光客への解決策の検証 - プロトタイプを作る - ヴィーガン飲食店でターゲットにヒアリング - SNSでのリサーチ |
5月 | ・MVPの開発 - フィーチャーの優先順位決定 - 場所の決定 - メニュー開発 - 集客の準備 |
6月 | ・MVP提供開始 |
迷いなく意思決定し、たった3ヶ月でMVP検証まで進むことができたのは、間違いなくインサイトからはじめたからだ。
1. 建物を出て、とにかく一次情報を集める
3月から4月は、とにかく建物(オフィス)から飛び出した。
ペルソナである「ヴィーガン訪日観光客」と直接話すために、都内のヴィーガン飲食店に行って苦手な英語で話しかけ、一次情報を集めた。
リサーチ人数は、たった2ヶ月で100名以上。
また、この時点で「ヴィーガン寿司専門店」の解決策のアイデアはなく、観光地近くの飲食店へのサービス提供も検討していた。
そのため、観光地の飲食店のアイドルタイムを狙って、一店一店の扉を叩いた。「少しだけお話し伺えないでしょうか」と、ヒアリングを行った。
(お忙しい中、快くお話してくださった飲食店の方々に心から感謝です。)
2. チームでインサイトを共有・蓄積する
次に、各メンバーが持ち寄ったリサーチ内容を共有しながら、共通するインサイトを抽出した。これにより、ターゲット像や抱える課題を丁寧に共通認識を取っていった。
- インサイトのより深い文脈を理解するための、カスタマージャーニーの作成
- 抽出したインサイトの元になったリサーチ数 (=ターゲットの人数,割合)の把握
などを行い、どのインサイトが深く広いものかを分析した。
その際、インサイトマネジメントSaaS「Centou」を活用し、リサーチとインサイトの蓄積、分析を行った。(めちゃくちゃオススメです)
3. インサイトを元に意思決定する
ブイクックでの新規事業開発では、スタートアップの定石である「課題→解決策→マーケット」という順に検証する。
リサーチを元に得られた「深く広いインサイト」を元に、取り組む課題・提供する解決策の意思決定を行った。
現在提供するMVP「Vegan Sushi Tokyo」の機能(場所/メニュー/店舗デザイン)も、全てインサイトからはじめている。
インサイトからはじめると何が良いか
インサイトからはじめると、事業・個人・組織の観点で3点にまとめられる。
- 事業観点:失敗の可能性が極限まで下がる
- 個人観点:外部からのNOに揺らがない
- 組織観点:チームの方向性がブレない
1. 失敗の可能性が極限まで下がる
スタートアップにおける最大の失敗は「求められていないプロダクトを作り、時間(資金)切れになること」である。インサイトからはじめると、この失敗の可能性を極限まで下げることができる。
分かりやすく言えば、「刺さるプロダクト」をつくることができる。
実際にVegan Sushi Tokyoでは、広告どころかプレスリリースすら出さず、1ヶ月で400名以上が来店。Google Mapレビュー100件以上・驚異の星5.0の高評価(むしろ怪しいw)いただいている。
2. 外部からのNOに揺らがない
起業家や新規事業担当者は、業界の先駆者や投資家などから、多くのNOを突きつけられる。その際、基盤にインサイトがないと「自分が間違えているのかも?」と不安に駆られてしまう。
しかし、インサイトがあれば揺らがない。
ネット記事やテレビだけでは得られない、自分たちだけが知るインサイト(強い課題感)を持っていれば、真っ直ぐに顧客だけを見て進むことができる。
(当然、参考にすべき反対意見があることは前提です)
3. チームの方向性がブレない
インサイトが蓄積・共有されたインサイトドリブンなチームは、方向性がブレない。
各メンバーが”良さそうなアイデア”を発散し、多数決で意思決定するようなミーティングはなくなる。チーム全員で「どんな顧客がいて、どんな課題を抱え、どんな解決策を求めているか」を本質的に議論でき、意思決定できる。
インサイトからはじめ、事業を急成長させる
スタートアップの目的は、事業の急成長であり、大きく社会を変化させること(ミッションの達成)である。そのために「インサイトからはじめること」は不可欠だ。
今後、どれだけチームが増えようとも、インサイトドリブンな組織であり続けたい。
最後に、ここまで読んでくださり、「インサイトドリブンな組織で働きたい!」という方がいらっしゃれば、ぜひお話しさせてほしいです。
現在注力している新規事業「Vegan Sushi Tokyo」が順調に成長すれば、数ヶ月後には採用募集を出していくことになります。