先日の資金調達のプレスリリースにて、吉川夕葉さんが株式会社ブイクックの取締役COOに就任したことをご報告しました。
取締役の増加は初めての経験だったので、雇用よりも不可逆性が高く、特に株主/投資家とのコミュニケーション上でも重要になるであろう意思決定のため、最初は「どう決めれば良いんだ?」という状態でした。
今回の記事では、一人で学生起業した僕が、初めて取締役を迎えるにあたってのプロセスを、等身大で書ければと思います。
同じような状況の方に、一事例として役立てていただければ幸いです。
こんな人におすすめ(=ブイクックの現状)
- 一人創業でやってきた
- スタートアップで、経営層がほしい
- プロダクトはあり、PMFを目指す段階
- 信頼できるメンバーがいる
(また、優しく相談に乗ってくださった先輩経営者の皆さんには大感謝です。この場でもお礼をお伝えさせてください🙇♂️)
まずは、背景と各手順の詳細を紹介していきます。
Table of Contents
背景:なぜ取締役を、今増やしたか
背景については、「なぜ取締役を増やしたか」と「なぜ今増やしたか」の2つに分けて書いていきます。
ミッション達成に向け長期的に関わるメンバーが必要だったため
「なぜ増やしたか?」の回答としては、ミッション達成のために必要だったからです。
僕たちの目指す「誰もがヴィーガンを選択できる”Hello Vegan!”な社会をつくる」ためには、そこそこ良い単一プロダクトをつくるだけでは不十分です。真にヴィーガン生活を支える優れたプロダクトを、課題ごとに複数生み出すことが求められます。
そのため、10年20年、もしくはもっと長い時間をかけてプロダクトをつくり、会社を経営していくには、志と長期的な視点を持って関わる経営メンバーが何名もいなければ実現できません。
そこで、2021年にブイクックに転職してくれた、4年以上の付き合いがある夕葉さんを取締役COOとして迎え入れることになりました。
資金調達の登記のタイミングと合わせるため
また「なぜ今増やしたか?」の回答としては、特に強い理由はありません。単純に今回の資金調達にあたっての新たに登記するタイミングと合わせての動きとなりました。
(結果的にJ-KISSを活用しての出資となったため、今回のタイミングで株主名簿の更新登記はなかったです)
ただ、まだまだ創業期(3期目)のタイミングで、取締役COOとして参加してくれたことは、会社としても個人的にもとても良い判断だったなと感じています。
個人的なことは最後に記そうと思いますが、PMF達成や初期のカルチャー醸成を共に過ごし、これから組織が拡大しても変わらない部分を担保する「原液」となる人がいることは、なんとも心強いです。
手順:どのように取締役を迎えたか
①取締役の定義・要求の明確化
最初に、「そもそも取締役ってなんだっけ?」「どんな人がなるんだっけ?」ということに立ち返り、取締役の定義と、要求を明確にすることにしました。
ひとまず、自分だけで考えていては埒が明かないので、他のスタートアップの先輩方に相談してみました。何社かにお話を伺い、次のような助言をいただきました。
取締役は、特に何か責任を求めるわけではないが、誰かが欠けても会社が継続するための存在。必要なのは、覚悟だけだと思う。
– 大尊敬する先輩(CEO)
「スキルや能力が高いから」という理由であればやめた方が良い。基準は、一緒に心中できるか。たとえ向こう10,20年以上は上場できなくても、給料がなくなっても、途中で匙を投げずに一緒にやれるかどうか。
– 大尊敬する先輩(CEO)
また、創業から数年後に役員としてジョインすることになった方にもお話し伺いました。
取締役になって、事業や会社に対して責任を果たすコミットメントは確かに高まったし、「自分が事業をやっている感覚」を得たという変化があった。役員でなければ、おそらくここまでガムシャラになっていなかったと思う。
– 大尊敬する先輩(役員としてジョイン)
そして、改めて『起業の科学』を読み直したところ、やっぱり参考になることが書いていたので、それも参考にしました。一部抜粋します。
創業者に必要な「やり抜く力」
「知能のレベルが最高でなくても、最大限の粘り強さを発揮して努力する人は、知能のレベルが最高に高くてもあまり粘り強く努力しない人よりも、はるかに偉大な功績を収める」
スタートアップの創業者に求められるのも、どんな局面に置かれても諦めずに最後までやり抜く力だろう。
『起業の科学』
メンバーはピボットできない!
スタートアップにとっての数少ない競合優位性の一つはビジョンであり、ビジョンを掲げて有能な仲間を集めることができるところだ。だからこそ、ビジョンを共有できないメンバーを集めて創業チームを組むことは絶対に避けるべきだ。
『起業の科学』
共同創業は結婚と同じ
メンバーとは、10年、20年と運命を共にするかもしれない。もし創業チームのメンバー間で、確執が生まれると、離婚するときのような泥沼が待っている。
『起業の科学』
上記のような情報から、取締役の定義と要求(追加の役割)を明確にしました。
取締役とは
「資金枯渇」「メンバー離脱」など、たとえ何があっても匙を投げず、会社の成長とミッションを達成する覚悟がある者が、取締役となる。
取締役になることとは
10,20年単位で人生を費やして、ブイクック社の成長とミッション達成のため、何があってもやり切る覚悟の証明と言える。
具体的に増える役割
- 株主とのコミュニケーション:既存株主とのコミュニケーションはもちろん、必要あれば新たな投資家に対してのピッチし、資金を集める/もしくはそれができる魅力となる。
- 社会とのコミュニケーション:文字通りブイクックの顔になる。あらゆる言動や立ち振る舞いが、ブイクックのブランドに直結する。 (役割はステージが上がるにつれて変化する想定です)
②株式についての決定
次に、取締役になる方法、特に株主について仮決めをしました。「株式を持ってもらうか?」「どれくらい、どう渡すか?」を考えていました。
株式についても、先輩の起業家の皆様から助言をいただき、2つの方針が見えてきました。
- 長期的なコミットメントにつながると期待し、株式を保有してほしい
- 株式譲渡/SOには、正確なvaluationの算出が必要になるため今はしない
上記の観点から、具体的には以下の形で株式/SOを取得してもらうことで仮決定しました。
- 今回の資金調達のタイミングで、他投資家同様に少量の株式を取得する
- 今後のSO導入後に、一定の持株比率になるようにSOで調整する
これを元に、メンバーとの話し合いの場を設けました。
※具体的な割合の記載は避けますが、気になる方はぜひご連絡ください!
この決定について、正直なところ最良の選択だったかは分かりません。ただ、メンバーと「相互の納得度」を最優先に、対話して決定することを意識しながら進めました。
③メンバーと対話し、認識の擦り合わせ
次に、「取締役の定義」「株式取得方法」を元に、メンバーとの対話に臨みました。①②を考える少し前から、当時のコアなメンバーには役員増加についての話は口頭でしていたので、スムーズに進められました。
工藤個人や会社としての要求や期待は明確にできたので、次はメンバーの考え、いわゆる「決意」や「覚悟」を確認しました。こちらも『起業の科学』を引用して”why you?”の観点から考えてきてもらいました。
メンバーのそれぞれが、「Why you?」「Why your team?」という自負を持っていることが重要である。
ミーティングにあたって、夕葉さんが事前にドキュメントをしっかり書いてきてくれたのもすごく良かったです。印象的だった言葉を、いくつか引用します。
(ヴィーガン業界は)自分に直結することだし、いつか本業にできるといいな〜何か関われるといいな〜とは思っていたけど、まだ市場は来ないだろうと思い先延ばしにしていた。
思ったより波が早くきたので、自分も仕組みを作る側にいたいと思い、ヴィーガン業界への転職を考えた。
7歳からヴィーガンなのに、誰かに環境を整えてもらおうとしている自分の姿勢に違和感があった。お前、自分でやれよって思った。
夕葉さんの回答(note)
あと柊くんがどんどんブイクックを前進させているのが、ありがたくもあり悔しくもある。早く追いついて同等のレベルで喧嘩したい。
これをコンプロ(投資元のtaliki社の社会起業家支援プログラム)のメンバーに言ったら、人生かけてるね〜て言われた。せっかく自分の時間を使ってるから、最大限次に繋がるようにしたい。
夕葉さんの回答(note)
また、取締役の定義に記載した「資金的枯渇」「メンバー離脱」についての考えも書いてくれていました。
資金枯渇「事業停滞により売上が立たず、それゆえ資金調達もできず、社員は全員辞め、それでも諦めずに前に足を進める」
そりゃそう。ブイクックの存在が、ヴィーガン業界の前進になると信じているし、そうでありたいので、資金が枯渇してもやり続ける。受託とかバイトとかでやりそう。今の3人はみんなで頑張り抜くイメージが持てる。
夕葉さんの回答(note)
メンバー離脱「一緒にやってきた仲間がどれだけ離れようとも、誰が死のうとも、会社の成長とミッションの達成を諦めない」
今の2人がいなくなるのはやだーーーー
いやだが会社としてのミッションは諦めない。くっそって言いながら仕方なく頑張り続けて、またメンバー探す方向に進むと思う。
夕葉さんの回答(note)
正直、めちゃめちゃに嬉しかったです。その後も何回か見直しています。
ここまでの熱意と共感を持って関わってくれる仲間ができたことは、本当に幸せなことだと思います。
最初は自分自身が一人で描いたミッションで、それを元に作ってきた会社/事業でしたが、もう自分だけのものではないんだなと、感じさせてくれました。
④株主総会・書類手続き・登記
すり合わせが完了したら、後は手続関係を頑張るのみです。
株主総会を開いたり、取締役承諾書を書いてもらったり、その内容を登記したり、バックオフィスメンバーと協力しながら進めました。(助かった。)
⑤リリース
最後に、資金調達のプレスリリースにて、夕葉さんの取締役就任も公表しました。
取締役就任にあたって、リリース出したり、記事を書いたりなどしない会社もあると思います。
ブイクックの場合は、「区切り」を意識的に設けないと、ぬるっと時間が過ぎていくタイプの人が多いため、背景・決意を振り返り、オープンにするようにしています。
今回はまさに「区切り」になる出来事だと捉えています。「一人創業から共同創業になる区切り」であり、「雇用関係から役員となる区切り」であり、「工藤のブイクック社から、ブイクック社の工藤と再認識する区切り」でもありました。
また同時に、僕はこのブログ記事「取締役増加のプロセス」を投稿し、夕葉さんもnoteで「7歳からヴィーガンの私が、取締役COOに就任したワケ〜1.1億円調達したブイクックでの挑戦〜」を投稿しているので、ぜひ読んでみてください。
工藤の個人的な変化について
プロセスを通じて信頼が増した
個人的に最も良かったことは、取締役化にあたってのプロセスで、改めて夕葉さんと「なぜやるか?」「なにを実現したいか?」を話し合えたこと、そして「取締役就任」という不可逆性の高い意思決定を決意してくれたことに、大きく信頼が増したと感じています。
もちろん社員メンバーにも、PMFを目指す段階のスタートアップに入社してくれたこと、人生を費やしてくれている感謝と信頼はあります。ただ、10年20年単位のコミットメントの表明は、より強いものだと実感しました。
「共同創業は結婚と同じ」という言葉の真意に触れられたと思います。
途切れない緊張から解放された
「みんな辞めても、一人でもやってやる」という、途切れない緊張感があったのだと、それから解放されて初めて気がつきました。
個人のミッションを果たすためはもちろん、期待してくださった投資家の方々、応援し続けてくれるユーザーの方々のためにも、走り続けなければならない長距離リレーにいる感覚でした。
そこに、隣で一緒に走ってくれる仲間が増えることは、この上ない心強さがあります。互いに不安や楽しさを共有し合い、困難には時に支え励まし合い、そして甘えのない厳しさで鼓舞し合えるような関係を長期的につくっていければと考えています。
最後に:夕葉さんとの出会いなど
最後に、夕葉さんの出会いやその後の思い出を振り返ってみたいと思います。せっかくの機会なので、夕葉さんの凄いところや尊敬しているところを紹介させてください。
振り返ると、夕葉さんとの出会いは4年以上も遡ります。互いに大学生だった頃、大学食堂にヴィーガンメニュー導入する活動をしていた僕にTwitterでDMをくれたのが2018年7月6日でした。
翌日に夕葉さんがたまたま大阪に来ていて、ルクア1100の蔦屋書店で会いました。(ご友人も一緒に!)
書きながら気がつきましたが、覚悟を共有してくれたミーティングからちょうど4年前でした。すごい。
この後すぐに僕はNPO法人を立ち上げ、夕葉さんも正会員として参加し、制作会社に就職した後もイベント事業を運営していました。また、株式会社ブイクックを立ち上げた後も、オンラインイベント「ヴィーガンカンファレンス2020」を開催するにあたっても、運営をサポートしてくれました。
この頃から、「夕葉さんに任せればなんとかなる」という安心感・安定感がありました。責任を持って、決めたことをやり切る力は今でもずっと尊敬しています。
その後、2021年4月にブイクックの最初の資金調達を実施し、5月に夕葉さんが転職してきてくれました。何度も電話で話してすり合わせていく中で、「逆に、私が入ることで経費が増えても大丈夫なの?」と質問を受け、会社全体のことを既に考えられる夕葉さんとぜひとも働きたい!と思いました。
そして、最も尊敬するところは「謙虚に、常に向上し続ける」ことです。
前職のPjMの経験から、一つのプロジェクトを責任を持ってなんとか作り上げることができることに加え、この1年間でプロダクトを0から作るための仮説検証や事業づくりの全体像を、自ら機会をつくって学習し、着実に身につけていく夕葉さんをみて、負けてられないなと奮い立たされています。
書いているとキリがないので、この辺りで終わりにしたいと思います。夕葉さんと一緒に働けること、とても光栄なので、僕もそう思われ続けるように前進し続ける人でいたいです。
夕葉さんに話を聞きたい方は、カジュアル面談やSNSなどで気軽に連絡してみてください!
一緒にヴィーガン業界を前進させる仲間を募集しています!
本当に最後に、採用大募集中なことをお知らせさせてください。
日本でヴィーガンに関心がある人も増加し続ける中、まだまだ環境が未整備である課題を解決し、ヴィーガン生活を支えるプロダクトを一緒につくっていく仲間を募集しています。
今回、1億円規模の資金調達も実施し、ヴィーガン生活を支えるプロダクトづくり、そして事業の成長にどんどん投資していきます。
一緒にヴィーガン業界を前進させたい!!と、少しでも興味を持ってくださった方がいれば、まずはカジュアルにお話しできると嬉しいです。
それでは!